INFORMATION
インフォメーション
インフォメーション

インフォメーション

ジョディーズロマン18スペシャルレポート

募集馬情報

今月の主役であるジョディーズロマン18に会うため、新冠町の日高軽種馬共同育成公社内にあるパッショーネを訪れた。本馬の育成を行なっているパッショーネは、西野城太郎氏が代表を務める開業5年目の育成牧場であり、現在は30頭ほどの管理馬を預託育成している。「募集馬スペシャルレポート」では初登場となるので、まずは西野代表に自己紹介を兼ねてホースマンとしての経歴をうかがった。「競馬に興味を持ったのはセイウンスカイの菊花賞がきっかけでした。当時は背が低かったこともあり、騎手を目指して、中学3年から乗馬クラブ『ライディングクラブウインズ』で基礎を学びました。水戸農業高校に入ってからは馬術部に所属したのですが、急に背が伸びて騎手を断念することに。でも、馬に携わる仕事をしたいという思いは変わらず、セイウンスカイみたいな馬を作りたいという目標を持って育成の世界を目指すことにしたんです」。その後に西野代表がホースマンとしてのキャリアを積んだ舞台は、思い出の馬セイウンスカイが育成されていた西山牧場育成センターだったという。

「そこで5年間勤務しました。ちょうどスカイの産駒がたくさんいた時期だったんですが、1日に合計7回も落とされるほどうるさい子供たちでした。スカイ自身もものすごくうるさい馬でしたね。憧れ続けたスカイでしたが、今思えばあんなうるさい馬には関わりたくない、もう嫌だと思ってます」と冗談めかして笑う。しかし、そんな気性の激しい馬に数多く騎乗して世話をしたことは、育成のノウハウを学ぶ上で必ずや西野代表の糧となっているだろう。

続いて勤務したのはノーザンファーム。そこでは育成・イヤリング厩舎に所属し、さらに経験を重ねた。奇しくも、同時期に在籍していたのが、ジョディーズロマン18を生産した新冠橋本牧場社長だった。本馬の育成をパッショーネに託されたのは、こんなご縁があったからなのだ。

「ノーザンファームの成功を見るにつけ、そのやり方は正しいと思います。でも、それにプラスアルファして新たな自分の考えで育成してみたいと思い、開業に踏み切りました。ノーザンで同期だった新冠橋本さんに負けてられないという思いもありますが、あまり深くは考えずに『ノリと勢い』を大事にしています。その分、イレギュラーなことに対処するのにも強いと自負してます」と、育成にかける熱い思いを語ってくれた。また、新冠橋本牧場社長は「西野君とはノーザンファーム時代の所属厩舎が違ったので一緒に仕事はしたことはありませんが、もちろん知っていました。パッショーネ開業後は売り馬などを何頭か育成してもらっています。ノーザンファームのやり方も熟知した上で、障害を使った調教などいろいろなメソッドを取り入れた、型にとらわれない育成方針が素晴らしいと思っています。うちと取引している飼料会社が同じで、同種類の配合飼料を使用しているところも安心できるポイントです」と話している。

ちなみに、当育成牧場の名前である“パッショーネ”はイタリア語で「情熱」を意味するが、これも「ノリと勢い」で付けられたそうで、開業当初から代表の片腕としてともに働いてくれているスタッフが考えてくれたのだそうだ。しかしながら、育成公社全体の案内板には掲載されているものの、厩舎自体には看板などはなく、見てくれへのこだわりがまったく見られない。持てる力はすべて馬に注いでいるという雰囲気が伝わってくる。

そんなパッショーネならではの管理メソッドとして特筆すべきは、充分すぎるほどの乗り込み量と言えよう。管理馬に課されるハッキング(スロー)キャンターの距離は、なんと1万メートルを超える日もあるという。1万メートルのハッキングキャンターを行なっていることを噂に聞いた育成関係者からは通称「万ハック」と呼ばれており、これまで聞いたことがないような距離を乗り込む斬新な育成方法だ。左右の手前を1500mごとに替えながら万ハックを行なうそうだが、育成公社の角馬場は1周150mなので、70周もの周回を重ねる計算だ。基礎体力の強化に重点を置いているが、スピードを出さないハッキングキャンターなので、大きな負荷をかけながらも馬たちに故障がないというのも大きなメリットと言えよう。

「遅いペースで馬を走らせると、スピードの惰性でなんとなく走ることができないため、トモをしっかりと入れて一歩一歩走らないといけなくなるので、トモへの負荷がより大きくなり、鍛えられるんです。馬の体調を見て、万ハックを毎日する馬、隔日でする馬、距離を短くするなど、馬に合わせて与える負荷を変えています。体力によっては1万mに到達できないこともありますが、1万mでも余力を持って消化できるという状態が、水準の体力が備わったと評価できるサインにもなります。ある程度の体力が付いてきても、8000m付近にひとつの山があって、ここを超えると急激に疲労が出てくるんです。まだ体力が本物ではない馬は、後肢が疲れてきてキャンターができなくなり、速いダクに落ちてしまう。ここがその馬の体力の限界点となるので、その時点で調教は終了です。体力が付くのが早い馬で、2歳の2月下旬には万ハックができるようになります。この時期にここまで進んだ馬はほぼ夏競馬でデビューできているんです。回数を重ねていけば、ほとんどの馬は万ハックレベルに到達しますが、なかには到達できない馬もおり、残念ですがそんな馬は競走成績がこれまで出ていません」と、西野代表が続ける。早期デビューやその後の成績までが、この「万ハック」をクリアできる時期や成否によってある程度占えるということになる。代表の説明をうかがいつつ、なんだかすごく画期的だとワクワクしてきた。

「だけど、騎乗するほうも万ハックに進める時期の初めは息が切れてゼーゼーとなってしまいます(笑)。1日に少なくとも5頭はハッキングで乗るけど、息は切れても、人のお尻が痛くなったり筋肉痛になるような乗り方(バランスのとり方)はしていないので、馬に変な衝撃が加わることはないはずです。長時間乗るので人も疲れはしますが、スピードの出るキャンターだと早いスピードの中で馬を制御することに集中してしまうため、馬の一歩一歩を感じて考えながら乗るのは難しくなります。ハッキングでの調教だと人も馬の動きを感じて考えて矯正しながら乗れるので、そういう面でも良いと思います」との説明から、万ハックを乗る騎乗者のご苦労と、さらなる利点を実感できた。

ちなみに、調教直後に馬の血液中の乳酸値を測ることによって判明した新事実があるという。万ハックを重ねると、体内にたまった乳酸をエネルギー源として消費する能力が高まって乳酸値を下げるというのだ。体内のミトコンドリアが増加して残存する乳酸が少なくなる効果があるらしい。調べたところ、疲労をもたらす乳酸が作られるのは「速筋」であり、乳酸をエサのように取り込むミトコンドリアは「遅筋」に多く存在する。速筋で増える乳酸を遅筋のミトコンドリアが摂取してエネルギーに変えつつ、ミトコンドリア自体も増えるそうだ。それによって、通常では考えられない長い距離を走れるようになるのだろう。

「この調教方法だと、持久力に必要な遅筋だけが鍛えられて、スピードを出すために速筋はどうなのかと疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。でも、これまで管理した馬は、血統的な要因もあるかもしれないですが、実際には短距離戦で力を発揮する馬が多いという印象です」と、まるで筆者の脳裏に浮かんだ疑問が判ったかのように、代表が続けて教えてくれた。強化された遅筋が速筋で作られた乳酸を消費していくことでスピードを持続できるということだろう。スピードと持久力を兼ね備えるという競走馬として理想的な体質を作るのにまさにふさわしい調教方法ではないか。

この万ハックメソッドによって鍛えられたパッショーネ出身馬には、ホッカイドウ競馬2歳重賞を制して当育成牧場に初の重賞勝ちをもたらしてくれたコーラルツッキーや、新馬3着でその後2勝を挙げているアルジャーノ、新馬勝ちから2勝を挙げているルタンブルなどがおり、開業5年目にして徐々に代表の苦労が実を結んでいる。

少し話が長くなってしまったが、あらためてジョディーズロマン18についてうかがうと、「骨格がしっかりしているので、安心して鍛えていける馬というのが、入厩当初の印象でした。そんな期待通り、順調に鍛えていけてます。ハッキングは6000mまで消化できるようになってます」と話しており、これからの成長ぶりがより一層楽しみになった。坂路調教ではすでに15-15まで進めており、年末は調教を休ませてリフレッシュさせている。

取材当日は、西野代表自ら騎乗して屋外坂路での調教を行なった。終了後には「調教ではいつも反応が良く、スッと動ける気持ちの強い馬です。悪そうな顔つきをしていますが、人に対して悪さをする事はなく、とても素直ですよ。今はまだ前肢側が後肢よりも勝った走りのバランスをしていて、付いている筋肉のバランスも前がかりなので、バランスバックでのハッキングで後肢を鍛えていきます」と教えてくれた。ちなみに、バランスバックとは馬の身体を起こしぎみにして後ろ側に負荷をかける乗り方で、何もせずに馬を走らせると前重心で走ってしまうため、馬術経験者は誰でも意識していることだという。

後日、橋本社長自身が調教をつけるためにパッショーネにおもむくという連絡があった。生産牧場から送り出した生産馬を育成場へ出向いて視察するということはままある。しかし、預託先で自ら跨って調教をつけるとなると話は別だ。これを見逃すわけにはいかないと、筆者もパッショーネを再訪した。ジョディーズロマン18には橋本社長、併走馬には西野代表が騎乗しての登坂を見せてもらう。当日は天候にも恵まれ、青い海原と空を背景に迫力満点の動きで坂路をパワフルかつ軽やかに駆け上がり、余裕を持って併走馬に先着するジョディーズロマン18に感銘を受けた。

調教を終えた橋本社長も「生産馬の誕生と無事な成長を見守り、1歳の秋頃に育成牧場へ送り出すまでが生産者の役目です。なので、育成先で自分の生産馬に乗って調教するということは、まずありません。本当に貴重な体験ができました。この時期の1歳馬としてはかなり進んでいるメニューですし、それでこれだけ動ければ文句はありません」と顔をほころばせた。さらに「力もあるし、すごく手先や動きが軽くて驚きました。血統背景からはいかにもダート向きなパワー系の走りかと思っていましたから、想像と違う乗り味でした。しかも、15-15でも一生懸命走っている感じではなく、余裕があるんです。スーッと楽にスピードが上がる感じで、もしかしたら芝でも走れるんじゃないかと思わせます」と嬉し気なテンション高めのコメントが続く。そして「初仔ですし、生まれた時は小さくてちょっと頼りない感じの馬でしたが、ホント立派に成長してくれました。この時期なので身体はまだまだ成長途上です。だからこそ、これからの成長が本当に楽しみ。素軽いままどんどん力強さが出てくれれば」と結んでくれた。橋本社長と一緒に調教で騎乗するのは今回が初めてだったそうで、西野代表からも「記念としてぜひ写真をください」と依頼された。二人のホースマンがこれからも信頼と友情をさらに深めていく様子が目に浮かぶ。新冠橋本牧場とパッショーネのタッグによる活躍馬がたくさん出てくれそうな予感に胸を躍らせつつ、本馬がその出世頭になってくれることを願ってやまない。