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グレイスキッパー(スモーキークォーツ18)スペシャルレポート

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宇治田原優駿ステーブルは、日本茶発祥の地と称されるだけあって延々と茶畑が連なり、これぞ日本の原風景と思わせる穏やかな丘陵地に居を構えている。近年は茶畑の中にソーラー電池のパネルが並んでいたり、新名神高速道路の延長工事のためかなりざわついてはいるものの、心安らぐ場所であることは間違いない。そんなのどかな立地ながら、折しも新型コロナウイルス感染拡大防止に日本中が必死で取り組み、自粛ムードが漂う中での取材となった。入口のガードマンに来訪の意図を告げると、ゲートで体温を確認。もちろんマスクを着用していたが、快く受け入れていただけた。駐車場であたりの様子をうかがっていたら、ウグイスやヒバリ、スズメやツバメなどのさえずりに混じって、場内から馬のいななく声が聞こえてくる。コロナ騒ぎはどこ吹く風と言った穏やかな空気感に、まずはホッとした。

本稿の主役であるスモーキークォーツ18ことグレイスキッパーは、生産そして北海道での育成を行なったチェスナットファームの広瀬代表が、配合からこだわった馬だ。広瀬代表は「父のカレンブラックヒルが種付けするところを見て、すごく良い馬だと思いました。それに種付自体がとてもうまかった。牝馬の上でソワソワしたりして集中力がないと種牡馬として成功しないと常々思っているので、これは成功する馬だと感じてスモーキークォーツに付けたんです」と話している。カレンブラックヒルは3歳1月のデビューからニュージーランドT(G2)まで連勝し、そしてNHKマイルC(G1)を制した。これはエルコンドルパサー以来となる無敗での制覇であり、4戦目というキャリア最短かつ年明けデビュー馬としては初という記録ずくめの勝利だった。3歳馬にして毎日王冠(G2)を勝利で飾るまでデビューから5連勝を挙げたダイワメジャー産駒である。古馬になってからも、ダービー卿チャレンジC(G3)、小倉大賞典(G3)で優勝して、22戦7勝、重賞5勝を挙げ、優駿スタリオンステーションで種牡馬となった。スタッドインしてからは毎年100頭前後と安定した交配をこなしており、2017年産が初年度産駒で、本馬はその2世代目となる。初年度産駒は仕上がりが早く2歳の夏競馬からデビューし、今年のデイリー杯クイーンC(G3)で3着のセイウンヴィーナスや、マーガレットS(L) 2着のメルテッドハニーなど、短い距離で父譲りのスピードを活かして活躍している。

広瀬代表は本馬の母系にも強い思い入れを抱いている。同代表がかつて栄進牧場で勤務していたころに祖母エイシンフリスキーが生まれ、ひと目見て惚れ込んだ事がきっかけとなって今も馬の仕事を続けているそうだ。「見た者が取りつかれるような魅力を持つ、不思議な馬でした。周囲からは、今のところあまり走っていないこの血統にこだわるのを不思議がられていますが、思い入れが深いからこそ、なんとか走る仔を出したいです。兄のレターオンザサンドが2勝を挙げてくれましたから、牝馬でも成績を出して、繁殖として戻し、この牝系を繋いで広げていきたいです」と熱く語る同代表の言葉からは、並々ならぬ思いが伝わってくる。祖母や母と同じく芦毛の本馬が誕生した時は、さぞかし嬉しかったことだろう。

そんな本馬の育成も、広瀬代表が行なってきた。浦河町のチェスナットファームでは屋内直線ウッドチップコースと屋内坂路1本を15-15のキャンター調教をこなし、広瀬代表は「バネがあって綺麗な走りをします。この血統は少しピリピリする気性を持っていますが、それが良い方向に向けば、兄のレターオンザサンドのように走ってくれると思います。体型は兄に似てますがこの仔のほうがより良い馬体ですね。兄も2歳になってから寒い時期まではやや華奢な感じでしたが、5月くらいから急激に幅が出て馬が変わってきました。この仔の化骨の進捗度からすると、5月には骨が完成していると思います。兄よりも1カ月くらい早く馬体の変化が見られますから、早く仕上がって結果を出してくれそう。乗った感触からも同時期の兄以上の手応えがありますよ」と評していたという。その兄は2~3歳時に芝1800mと芝2000m戦で2勝し、3歳500万下では、後にセントライト記念(G2)で3着となり菊花賞に出走したザダルにクビ差の2着と健闘しているのだから、本馬への期待も膨らむというものだ。

その後、本馬を管理予定である杉山(晴)師の「早めに内地へ移動させて環境の変化に慣れさせたい」との意向で、3月下旬に茨城県の阿見トレーニングセンター内にあるチェスナットファームへ移動して乗り込みを重ねた。そして、5月中旬に当育成場へ到着したのだ。しばらくの間はウォーキングマシンでの運動に加え、環境に慣らすためのスクーリングを兼ねて場内を常歩で歩かせた。それから角馬場に入れて、さらにハッキング用のB坂路で数日乗り込まれたという。

取材当日、田中マネージャーに案内されて厩舎エリアへ向かった。本馬が繋養されているG厩舎は場内の一番西側に位置している。着いた時にはウォーキングマシンに入っていたが、先に写真撮影のため曳き出されてきた時は「ずいぶん大人しい馬だな」という印象だった。まだここへ来て10日ほどにしかならないのに、鳴きもせずソワソワすることもない。身体つきこそまだ幼さを感じさせるものの、その落ち着きぶりに感嘆した。写真撮影の際にも、少し離れたところに僚馬たちの姿が見えていながら、鳴いて呼ぶようなこともなくスムーズに行なえたことに驚かされた。

その後、馬装して年上の芦毛馬に誘導され、2歳馬が3頭一緒に坂路に併用された通路を下って行く際も、2歳馬のうち1頭が少しソワソワしていたが、つられたりすることもなくしっかりと騎乗者の指示に従っていた。ダートの角馬場をハッキングで4周し、それから2本あるうちのメインの方、A坂路を3頭の一番外に併せて20-20のペースのキャンターで駆け上がってきた。これまで乗られていたB坂路とA坂路の一番大きな違いは、距離とコースの幅である。A坂路に入れたのはこの日が2回目だというが、クーリングダウンの常歩運動の際に近くで見ていると、ほかの馬がかなり汗をかいているのに対し、本馬はほとんど汗をかくこともなくケロッとしていたのが印象的だった。

騎乗された山下さんがかつて北海道の牧場にいた時にはBTCでの騎乗経験もあり、こちらに来られてからはもう7年ほどになるという。まだすべての2歳馬に騎乗してはいないそうだが、その中では本馬のことがお気に入りらしく、「気持ちが入ると少し前のめりになることがありますが、とても従順で乗りやすく、良いと思います」と話された。厩舎長の大島さんも「とにかく手がかからない。前向きな気性で飼葉の食いも良い優等生ですね。まだ少し細身ですがしっかりしているし、このままペースを上げていけそうです。杉山調教師とは連絡を密にとっていますし、入厩は早いかもしれませんね」と教えてくれた。

調教を終えた本馬は洗い場に向かった。手入れしてくれたのは、入社2年目の渡井さんで、今後は競馬学校からトレセンでの仕事を目指している若きホースマンだ。変わった苗字なのでもしやと思って聞いてみると、やはり筆者が存じ上げている厩務員の息子さんだった。見るからに陽気でさわやかなお兄さんに手入れしてもらいながらも、グレイスキッパーは牝馬らしく腹の下を触られるのはあまり好きではないらしい。でも、それ以外は大人しくて人懐こくて、誰からもかわいがってもらえそうな“得なタイプ”の馬だ。

浦河町にいたころの本馬へ対する「少しピリピリしたところがある馬」というコメントが少し気になっていたのだが、今はそんなところをまったく感じさせない。浦河、茨城、そして宇治田原へと移動していろいろと経験するうちに、精神的にも着実に成長していることを実感した。洗い場で立っているところを見るともう少し身体に厚みが出てほしいと感じたが、兄レターオンザサンドもかなり薄手な馬なので、これで良いのだろう。

このG厩舎・チーム大島は、主に岡田、庄野、そして本馬がお世話になる杉山(晴)厩舎の馬を預かっている。杉山(晴)厩舎は2019年に30勝とそれまでの年間勝利数を大幅に更新しているが、今年は5月24日時点ですでに18勝を挙げており、まさに登り龍の勢いを見せている。所属馬デアリングタクトが桜花賞に続いてオークスを制し、63年ぶりに無敗の二冠馬となったが、G厩舎・チーム大島が同馬の休養調整を託されていたと聞いて、まるで我がことのように嬉しかった。というのも、取材に伺ったのはオークス前日の5月23日だったのだ。新型コロナウイルス感染拡大防止のための制限がなければ、彼らも阪神競馬場で、そして東京競馬場で、喜びを分かち合ったに違いない。テレビの前で声援を送るスタッフの顔が目に浮かんだ。誌面をお借りして「本当におめでとうございました」と伝えたい。願わくは、デアリングタクトに活かしたノウハウを本馬にも与えてくださらんことを。そして、それに応える成長をしてくれるよう願ってやまない。

また、本馬の祖母エイシンフリスキーの弟であるエイシンオンワードは、“上げ馬神事”で有名な三重県桑名市の多度大社に「錦山」という名前で仕える神馬だという。神に仕える馬の一族である本馬に、競走の世界で神が舞い降りてくれることを祈る。

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