INFORMATION
インフォメーション
インフォメーション

インフォメーション

(外)ライラックスマイル(ライラックローズ18)スペシャルレポート

募集馬情報

酷暑となった夏を越し、上着を1枚羽織ってちょうど良い季節を迎えた10月の好日。茨城県の阿見トレーニングセンターに居を構えるリバティホースナヴィゲイトでデビューに備えて調教を進めるライラックスマイルが本稿の主役だ。好天の中で取材をできればということで週間予報とにらめっこしながら日程を調整した甲斐もあり、東京を出る時は雲ひとつない快晴。「天高く馬肥ゆる秋」と言われてきたように空も澄み渡り、風もほとんどない絶好の取材日和となった。

ライラックスマイルは今年の2月にオーストラリアで行なわれたInglis Classic Yearling Saleで村上欽哉牧場が落札して、募集馬としてローレルクラブに仲間入りした。オーストラリアのArrowfield Studで生産された馬だが、父母ともに日本に馴染みのある血統で、6月号の会報(No.358)で募集が発表された際には見て驚いた。

父のMikki Isle(以下、日本馬名のミッキーアイルとする)は初年度産駒がデビューを迎え、小倉2歳ステークスを制したメイケイエール、2戦2勝でヤマボウシ賞を制し中京競馬場のダート1400mの2歳レコードを樹立したデュアリストなど、既に活躍馬を出している。母のLilac Rose(以下ライラックローズ)は日本で競走馬生活を送った後、繁殖牝馬としてオーストラリアへ渡った。ライラックローズの妹には今年の大阪杯や昨年のエリザベス女王杯などG1を3勝しているあのラッキーライラックがおり、日本で活躍する下地は充分と言えよう。

さらに血統をひもとくと、本馬の祖母ライラックアンドレースの父としてFlower Alleyの名がある。Flower Alleyは現役時代アメリカで走り、G1トラヴァーズステークスを制し、種牡馬としては輸入種牡馬のアイルハヴアナザー(ケンタッキーダービーG1、プリークネスステークスG1)を輩出している。そしてFlower Alleyの兄弟を見るとトーセンラー、スピルバーグと2頭の本邦G1馬がいる。母系の日本への適性が高いのを感じていただけるのではなかろうか。さらに極めつけというわけではないが、本馬の4代母のステラマドリッドを注目した上でミッキーアイルの母系を見て頂くと、同じくステラマドリッドの名前が刻まれている。ステラマドリッドは、エイコーンステークスなど米G1を4勝した名牝で、2002年のJRA賞最優秀4歳以上牝馬のタイトルを獲得したダイヤモンドビコーの母でもある。ダイヤモンドビコーが村上欽哉牧場で繁殖生活を送ったこともあり、牧場としてこの牝系への期待値が高いからこそ、海外から輸入するに至ったのだろう。オーストラリア産ながら、日本で活躍馬を続々と輩出する活気ある牝系の結晶がライラックスマイルである。

さて、東京から車で1時間ちょっとで目的地のリバティホースナヴィゲイトに到着。本馬の調教は9時頃からと言うことなので、その前にトレーニングセンター内の撮影スポットをロケハンし、カメラの準備を行なっているとスタッフから声がかかった。ウォーキングマシンでウォーミングアップをしていたライラックスマイルが馬装のために厩舎に戻ってくるところだった。リバティホースナヴィゲイトで15年乗り続けている担当の守屋将太さんの手によって鞍がつけられ、あっという間に調教へ向かう準備が整う。当日の調教メニューを聞くと、角馬場で体をほぐした後に1周1200mのダートコースを2周し、ラストはハロン17秒であがってくるという。それに合わせて筆者もコース沿いにスタンバイした。

ライラックスマイルは前に1頭馬をおく形で角馬場を5周し、体をほぐしてから本馬場へ移動。僚馬を後ろから追いかける形で2周し、最後の直線では首を使い前脚でしっかり掻き込んで目の前を走り抜けていった。馬場へ向かって歩く姿、フットワークよく駆け抜けていく姿を見て「柔らかみ」を感じたので、守屋さんに聞いてみたところ「見た目以上に柔らかい筋肉を持っていますよ」と笑顔で答えてくれた。

調教後、鞍を外してそのままウォーキングマシンでクールダウンに入ったライラックスマイル。洗い場に戻ってくるまでの間に、守屋さんから本馬のエピソードを伺ったので紹介したい。

来日から5カ月経ち、これまでの様子について気になる質問をぶつけてみた。夏負け気味だったという事だったが、今はどうなのかという点については「夏負けしていた際にはイライラしている様子も見受けられたが、今は体調が良化して安定しています」とのこと。周囲を気にする牝馬らしい繊細な部分があるものの、厩舎内で過ごしている時にはコースで馬が走っているのも気にしなくなり、自分のペースで過ごせるようになってきているのは、環境への慣れと精神的な成長と言える。

入厩当時は周りを歩く馬の足音を気にして、体に力が入ってしまうことが多かったが、その点についてもだいぶ改善してきているという。休む時にはしっかり体を休められるようになったそうだ。今も後ろに馬がつくと緊張感を持つような面を見せるので、そこで体が硬くならないように気を配って調教を進めている。精神的な部分の落ち着きは他にも感じられるようで、以前は体を触られると暴れるような面があったが、今はたてがみの辺りを触ると嫌がる仕草を見せるものの、受け入れられるくらい成長してきているそうだ。馬装の際にも守屋さんのほうに首を振ったりはするが、噛みつくような感じはなく、ただ作業を気にしている様子。以前は怒りっぽい様子だったとクラブ担当者から聞いていたが、そんな素振りは見られなかった。

取材した日の馬体重は460キロ前後とまだ若干小柄に感じたが、その点について伺うと、「今まではテンションの高さもあって体重が増えづらい面がありましたが、落ち着いてくればトレーニングを重ねていっても馬体はもうひと回り大きくなってくれるでしょう」と語ってくれた。

テンションの高さを不安視する方もいるかも知れないが、これは必ずしもマイナスではなくて「普段のトレーニングから必要以上に力を使って走っているので、体力が鍛えられているのを跨がっていて感じるし、タフな馬に育っています。脚元も丈夫なのでこれから調教のピッチが上がってきても問題なさそう」とのこと。タフさや脚元の丈夫さは競馬に行ってもしっかり使い続けられることにつながるだろう。これからの調教を進めていく中での課題についても伺ってみたところ、現時点では前肢での掻き込みが強かったり、首の筋肉が発達しているのに対して、お尻のあたりの筋肉が少し遅れているようなので、そこを重点的に鍛えていくことになるようだ。「後肢を鍛えていくことで可動域を広く大きく動かせるようになっていければ更にフットワークよく走れるようになるでしょう」と期待を話してくれた。

ライラックスマイルに乗っている守屋さんに率直に距離適性なども聞いてみた。筆者は父のミッキーアイルの産駒のイメージから短距離での活躍を想像していたのだが、「走りの感じから短距離のイメージはなくて、むしろ長めの距離で活躍しそうだと思ってます」とのことだった。言われてみればラッキーライラックは中距離G1を2勝しているし、母の兄弟も中距離で走っているように、母系の走りを受け継いでいるに違いない。今の調教スタイルでトレーニングを積んでいけば、距離の幅の広い馬に育っていくだろうというお話だった。

ウォーキングマシンでのクールダウンを終えた後、洗い場で汗を流しているところをじっくり撮影しながら観察した。触られるのを嫌がる面があるという話だったが、繋がれた場所から動かずに洗われるのを見ていると、オフのタイミングでは力を抜けるようになっているんだなと実感した。きれいに洗ってもらった後に立ち写真の撮影をする時も、人の指示をちゃんと聞いてくれて、脚の位置を合わせるのにも従順。スムーズに撮影を終えることが出来た。顔のアップ写真を撮る時にあらためてじっくり顔を見たが、愛嬌のある表情を見せてくれる。そんなことを守屋さんに伝えると「自分にとっても、手がかかる部分はあるけれど、その分思い出に残る馬ですよ」とライラックスマイルに語りかけるように優しい笑顔で答えてくれた。

雨の日など馬場が悪い時に使うトレッドミルや、レース後にこちらに入厩してきた馬の筋肉をほぐすために使うエクイヴァイブなどの施設も、ライラックスマイルと一緒にご案内頂いたが、促してあげるとすーっと入っていく様子からも、本馬と守屋さんの信頼関係が良好なのが伝わってきた。

施設の見学を終えて厩舎に戻ると、馬房に用意された飼葉を見つけ、飼葉桶に顔を突っ込んでもくもくとお食事タイムに入ったライラックスマイル。守屋さんは「飼葉食いは良くて、焦って食べ散らかすようなこともなく、自分のペースでいつも残さず食べています」と話す。「ここから先、ハードなトレーニングを積んでいっても、しっかり食べて馬体を成長させてくれればいいですね」と筆者が問いかけると、「そうなってくれることを期待しています」と自信に満ちた表情で答えてくれた守屋さん。血統背景からも活躍を期待させる本馬だが、今回の取材で守屋さんの期待の高さを伺って、より一層競馬場で会える日が楽しみになってきた。