INFORMATION
インフォメーション
インフォメーション

インフォメーション

カーサエスペランサ17スペシャルレポート

募集馬情報

今月の主役であるデイタイムは、千葉県の和田牧場で育成されている。引退されるまで調教師として当クラブ所属馬をたくさん管理してくださった和田正道先生は、生家の当牧場で辣腕をふるっておられる。そんな正道先生の父上である和田正輔氏は、隣接するシンボリ牧場で長く場長を務められた。そして、1947年に正輔氏が独立して創設したのが和田牧場なのだ。ちなみに正道先生が生まれたのも1947年であり、奇しくも和田牧場と正道先生は“同い年”ということになる。誌面をお借りして、正道先生のご健康とますますのご活躍を、そして和田牧場のさらなるご発展をお祈り申し上げたい。

デイタイムを取材するために和田牧場を訪れた3月上旬は晴天だった。しかしながら、気象庁の発表によると2019年の元旦から2月28日にかけて、成田市の総雨量はわずか43.5mm。一転して2月28日からは1週間以上も長雨が続き、その総雨量は66mmだったという。取材当日こそ好天に恵まれたものの、前日にやっと雨から解放されたばかりである和田牧場の調教コースは、まだ“重”といったところだ。調教コースが“良”であれば、800mのダートコースを3周してラストはハロン15秒でフィニッシュするのが通常の調教メニューなのだが、この日は馬場状態を考慮して控えめな内容で行なうという。もっとも、こんな状況でもトレッドミルでの運動負荷を調整することで必要な運動量を補えるそうで、早期からトレッドミルを導入した当牧場ならではの充実した設備がものをいうのだ。

この時期のデイタイムは早朝4時半に夜間放牧を終え、トレッドミル運動でウォームアップ。それから馬装して騎乗調教を行ない、洗い場で汗を流してから馬房に戻る。夕方の16時半には夜間放牧を開始するというルーティンを日々こなしている。本馬の騎乗調教を担当しているのは、モンゴル人女性スタッフのラハスレン・エンヘトヴシンさん。本稿では彼女の愛称であるエンヘさんと呼ばせていただく。エンヘさんが夫の*オチル・バタサイハン(愛称:バーギー )さんとともに来日したのは3年前だという。当日は、和田牧場のベテランスタッフで同じくモンゴル人のハイチン・バヤルマグナイ(愛称:マグナイ)さんが通訳してくれた。*モンゴルでは通常夫婦別姓

エンヘさんもバーギーさんも6歳から馬に乗りはじめたというベテランホースマン。エンヘさんは現在7歳の長男と6歳の長女を持つ母でもあり、出産後から騎乗を控えていたものの、お子さんが成長してから騎乗を再開して現在に至っている。ちなみに、息子さんはすでに馬に乗りはじめており、お嬢さんも今年から開始するという、バリバリのホースマン一家なのだ。

デイタイムの初期馴致を行なったのはバーギーさんとマグナイさんだそうで、ロンジングはおふたりで、丸馬場での騎乗馴致をバーギーさん、そしてコースでの調教開始後はエンヘさんへとバトンが渡されてきた。マグナイさんは当時を振り返って「とても物覚えが良くて、一度覚えたことは忘れません。学習能力の高い馬です」と褒める。エンヘさんが「小さいころは大人しい馬でしたが、成長とともに男馬らしいところも出てきて、最近は口がうるさくなってきました。でも、私が優しく接してあげると、お返しに私に対しても優しくしてくれます」と話しているように、本馬は賢くて女性に優しいナイスガイぶりを発揮しているようだ。

さて、馬装を終えたデイタイムは角馬場で入念にダクを踏み、それから800mのダートコースへ移動した。間近で見知らぬ人間が見ていても、まったく気にする様子がない。エンヘさんによると「普段は慎重な性格で、引いている時には物見もしますし、何かに注意を引かれると、安全が確認できるまで動かないようなところもあるのですが、人が跨ると性格が変わって平気になってしまうようです」とのことだ。騎乗者とよほど深い信頼関係で結ばれているのだろう。

やがてダートコースへ入った本馬は、1周目は軽め、2周目は強めのキャンター調教をこなす。しなやかで素軽いフォームが印象的だ。エンヘさんも「柔らかい身体の使い方をしますし、乗っていて気持ちの良い馬です。まだ若い馬ですが、物見をしてビックリしたり、急に立ち止まったりすることもありませんから、ずっと乗っていたいと感じる馬です。それに、背中に跨ると、走りたいという気持ちを前面に出してくれるんです。併せ馬になるとさらに気持ちが乗ってきます。これから競馬へ向けて調教が強化されてくるにつれ、もっと良いところが出てきそうです」と褒める。

バーギーさんがほかの馬に騎乗して夫婦で併せ馬をする機会も多いそうだ。この日の併せ馬ではデイタイムの僚馬にバーギーさんは騎乗しなかったが、クラブ公式サイトで公開中である本馬の調教動画ではご夫婦で騎乗しているので、ぜひご覧いただきたい。「よく別の馬の背中の上からデイタイムの動きを見ているのですが、いつも良いキャンターを出す馬だなと思っています」と、バーギーさんの評価も上々だ。調教を終えたエンヘさんに、あらためて本馬の長所をうかがった。「一番は、仲間5~6頭と一緒に走っていたら必ず先頭に出ようとするところ。私が『今日は後ろを走らせよう』と思っても、この仔は一番前じゃないとイヤなんです」と答えるエンヘさん。競走馬となる上で最も大切な“負けず嫌い”な気性の持ち主だというのが頼もしい。続けて、「ずっと乗せてもらっている馬ですし、競馬にいって勝つところを早く見たいです。もちろん最初から勝ってくれれば一番良いですけど、1回、2回走れば競馬を理解してくれると思いますし、きっと動いてくれます」と本馬への期待を話してくれた。

和田牧場には、ベテラン日本人スタッフに加えてモンゴル人のスタッフがたくさんいる。ある時、正道先生に「モンゴル人スタッフがたくさんいるのはなぜですか」と聞いたことがあるのだが、「騎馬民族だからね。みんなスゴイ馬乗りばかりだよ」との即答に深くうなずいたものだ。冒頭のエンヘさんご家族の紹介でも触れたように、幼いころから馬に乗りはじめる人が多い。個人個人というより民族的に“馬乗りのDNA”が受け継がれているのだから当然かもしれないが、皆さんの騎乗技術はもとより、何よりも馬への深い愛情にいつも感心させられている。

以前、グリーンチャンネルで放映された『岡部フロンティア2018 モンゴル編』のDVDを正道先生に見せていただいたことがある。ナーダムというモンゴル最大の祭りで行なわれる競馬のナンバーワン調教師として名高いバタビレグ師を岡部さんが訪問した場面を見ていたところ、同調教師が「千葉県の和田牧場で研修を積んだ」と話しているのに驚いた。すぐに画面を一時停止して、古くから当牧場にいるモンゴル人スタッフにこの画面を見てもらうと、「ああ、ここで馬に乗ってたよ」とこともなげに教えてくれ、驚きはさらに深まった。正道先生の指示を的確に伝えて現場を仕切る日本人スタッフと、ホースマンの血脈を生まれ持ったモンゴル人スタッフのもと、デイタイムは日々鍛えられているのだ。

取材終了後、お昼休みを挟んで再び和田牧場へお邪魔した。この日は、正道先生のご子息である和田正一郎厩舎所属で、同牧場にて休養調整を行なうオジュウチョウサンが、阪神スプリングジャンプ(JG2)で11カ月ぶりとなる障害戦に復帰した。スタッフの方々と一緒にテレビ観戦して応援させてもらったが、結果は読者の皆様もご存知の通り、堂々の障害重賞10連勝を達成。和田牧場で休養調整時のオジュウチョウサンを担当するのは、今回の取材で通訳をしてくれたマグナイさんだという。担当馬の見事な優勝を見届けてからもしばらくテレビの真正面に陣取っていたマグナイさんが見せた誇らしげな表情に、筆者の感動もより深くなった。

オジュウチョウサンと同じく和田正一郎調教師が管理してくださる予定であるデイタイム。同じ牧場で育って同じ厩舎所属で活躍する大先輩のように、エンヘさんをはじめとするスタッフの皆さんから誇らしく思ってもらえる存在になることを願ってやまない。