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ソーラーシステム(ルナツー21)スペシャルレポート

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眼の前にいる立派な馬格の牡馬は、いったいここまでどれだけの関係者や会員様をやきもきさせてきたことだろう。それが本稿の主役、ソーラーシステムだ。春ころから調教のメニューをいろいろ工夫して進めてきたが、一向に良くなる気配がなく、どれだけ獣医が診察してもわからぬ原因不明の疲れで調教がままならない。ついに最後の手段として環境を変えてみることになり、7月にこの馬を管理する鈴木孝志調教師と相談して白羽の矢が立ったのが、ここ三重ホーストレーニングセンター(以降は三重ホースTC)だ。

当育成場とローレルクラブは杉山佳明厩舎所属馬での縁が深く、ローレルアイリスやビーナスローズなどがお世話になっており、本馬の兄(ワールドハート:杉山佳明厩舎)も現在ここで調整されている。クラブ事務局からは、これまでの経緯によりこれから調教が進んでいく予定の馬なので、牧場の紹介も取り入れてほしいと依頼があった。取材当日は運悪くかなりの悪天候になる予報で、撮影のコンディションを考えるとすっきり晴れた日に取材するべきであるものの、日程上の問題で強行させていただいた。

三重ホースTCは、東海環状自動車道の東員インターを降りて5分ほどの場所にあり、栗東トレセンからは小一時間で着く。すぐ近くにイオンの看板が見え、牧場の目の前にファミリーマートとセブンイレブンがあるとても賑やかで便利な場所だが、牧場は小高い場所にあるので、賑やかな場所からは独立しているような落ち着いた環境にある。

筆者はかつて旧所在地にあった三重ホースTCを訪れたことがあるが、移転後は初めてである。正面玄関を入ると目の前に事務所があるが、三代目社長の伊藤裕章さんは現場で指示を出されていた。悪天候での取材を強行したことを詫びたが、幸い雨はそれほど酷くなく、うまくいきそうな気配に胸を撫でおろした。そして、伊藤社長は以前と変わらぬ優しい笑顔で迎えてくれた。真っ黒に日焼けして、全体的にふっくらしたようだったが、その理由は後から知ることになる。

調教が始まるまでの時間に厩舎を案内していただいた。36頭ずつ入る大きく長い厩舎2棟が奥に伸びていて、並行して3基のウォーキングマシンがあり、奥の2基をウォーミングアップ用、手前をクールダウン用として使用しているそうだ。この牧場規模で3基のマシンがあるところはないという自慢の設備だ。

トレセン近辺の新しい育成場がこぞって坂路を作っている昨今、攻めすぎない調教で馬に休息を与えながら、身体はもちろん、精神面のケアを大切にしているそうだ。馬の個性に合わせた付き合い方をされており、ひとつの例として厩舎の入口付近の馬房で落ち着けない馬には、奥の専用馬房に入れ替えるなど、細かい配慮がなされている。その馬(カワキタレブリー:杉山佳明厩舎)にとってはここが一番安心していられる場所になっているらしい。

今回社長からたくさんお話を聞かせていただいた中で、ご自身が中学、高校で陸上の選手だった経験が、競走馬というアスリートに対する管理に寄与していることを感じた。放牧に来た馬が馬運車から降りた瞬間からひと時も無駄にしない気持ちで、放牧日数に長短はあってもそれに合わせた調整を行ない、できるだけ良い状態で厩舎に戻すことを大切にされていた。

三重ホースTCがある三重県員弁郡東員町付近は、もともと草競馬が盛んで、ごく普通に家で馬を飼っている土地柄であったそうだ。もともと草競馬のコースだった場所を利用して、初代社長である祖父が三重ホースTCを始めたという。

その後に何度か移転しつつ、高速道路延長の関係で現在の場所に落ち着いて10年ほどになる。祖父はかつて大阪府岸和田市にあった春木競馬場で調教師をされていたそうで、伊藤社長は幼いころに飼葉桶の中でキリストの再来(!?)のように寝かされていたらしい。春木競馬場の閉場とともに兵庫県の園田競馬場へ移り、将来は園田競馬場で調教師になるつもりだったそうだが、祖父が調教師引退後に牧場を開いたことから牧場運営を引き継いだ。

先にも触れたが、中学、高校の頃は陸上競技をされていて、短距離の選手として全国大会に出場経験もあったという。将来を考えて、馬だけではなく他の世界も見たいと、東芝で10年間勤めた。半導体の製造に従事しながら陸上競技を続けたが、信頼できる上司から組織の中での人の動かし方などを学べたと言う。その経験は、スタッフが無駄なく楽しんで働いていることから、大いに活かされていると感じ入った。

牧場スタッフ22名のうち、日本人が11名で残りはフィリピンからの単身赴任者。フィリピン人のスタッフは、社長自らが現地に行って採用を決めた方たちで、年1回1カ月の休みを交代で取って国に帰って貰っている。12年も勤めている人がいるように、故郷から遠く離れた日本での生活ながら、満足できる環境にあるようだ。真面目で寡黙によく働く人たちで、草刈りの仕事などは機械の奪い合いになるとうかがい、その様子を想像すると実に微笑ましい。社長は少し出っ張ったお腹をなでながら、おかげで楽をさせて貰っていると笑う。

この日、雨は突然ざっと降ったりもしたが、ラッキーなことに大して濡れることもなく調教を取材させていただくことができた。騎乗前にウォーキングマシンで1時間、じっくりとウォームアップを行なう。マシンから出ると洗い場で鞍をつけ、僚馬とともに厩舎のあるエリアからゆったりした坂道を登って一番高いところにある馬場へ向かった。カーブを緩やかにつけてあるという600mのダートコースを、当日は馬場が悪いため軽く4周する。曳かれて歩く時などは大型馬にありがちな少し不器用な感じが見てとれるものの、騎乗すると前向きな性格でしっかりした動きを見せてくれた。

これまでトラブルがあったのが嘘のように、ここへ来てから一日も休むことなく乗り込めているのが何よりも嬉しい。身体が引き締まってすっきりしてきたし、まだ今は軽めなのでのんびりしている面があるが、だいぶ気持ちが乗ってきたようだ。これからさらに乗り込んでいけば、ピリッとした雰囲気を持つ立派な競走馬になってくれるだろう。調教に出る前の馬装、騎乗後の洗い場での手入れは、2歳の牡馬ならもう少しやんちゃな面があっても良いのではと思うくらい従順だった。おそらくこの先調教を強めていっても気性面の心配はないだろう。

広々とした場所が好きな人は多いだろうが、筆者のように隅っこや机の下、押し入れの中が好きな人がいるように、広大な調教場では気後れしたり憂鬱になったりする馬がいるかもしれない。環境を変えつつ、ソーラーシステムが水を得た魚のように自由に伸び伸びと成長してくれることを期待し、時に強くなる雨脚さえ苦にならないほどの人馬への感謝の思いを胸一杯にして帰路に就いた。

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