
そろそろお屠蘇気分も抜けようかという1月中旬。「アメージングムーン24はファンタストクラブからNEW ERA(ニューエラ)を経由して、チャンピオンヒルズへ移動します」という連絡が入った。その第一報を聞いたとき、この馬に対する奥村武厩舎の期待の高さに対する希望が、確信に変わった。奥村武厩舎では、次のステップへと移行できると判断した馬については早めに移動させるケースが多く、年末年始の移動についても選択肢のひとつとしてプランがあったという。比較的温暖な気候条件のもとでのトレーニングや、多くの環境を経験させることは、競走馬になるべく心身を成長させるうえでマイナスのはずがない。
ご存知ない方のために少々補足させてもらうと、NEW ERAは2015年に千葉県香取市に設立された競走馬育成牧場ヒモリファーム(現DAYS)の後期育成牧場である。日本最大級の全長約1200mのウッドチップ坂路(高低差33m)と1周800mのウッドチップ周回コースを備え、1頭々々に合わせた管理体制でアスリートたる馬をサポートする外厩施設だ。そしてチャンピオンヒルズは滋賀県大津市にある関西地区最大規模の競走馬育成牧場で、数々の名馬がここを拠点にしている。アメージングムーン24にとって最高の環境が用意されたと言っても過言ではない。

筆者は、出発前の状態をレポートするために慌ててファンタストクラブへ向かって車を走らせた。ここもまた、民間の育成施設での国内最大級の規模を誇る育成施設であり、1度に30頭ほどの明け2歳馬がトレーニングを重ねるシーンは壮観だ。
「今年も150頭ほどお預かりさせてもらいました。1組30頭で5鞍。今の段階では、すべての馬がほぼ同じメニューですが、アメージングムーン24はその中でも最も進んでいるグループです」と後條雄作場長が話す。このうち、すでに1割ほどの馬がリタイアしているという。「1番多いのは種子骨炎です。同じ運動メニューでも、涼しい顔をしてこなす馬もいれば、そのメニューに耐えられない馬も出てくる。その点、村田牧場の馬は当歳時からしっかりと負荷をかけられているので、馬がしっかりしている。鍛えがいがあります」と、村田牧場の馬の管理に深い信頼を寄せている。
そして、馬装を終えたアメージングムーン24が外国人ベテランライダーを背に馬場へと向かった。1月生まれとはいえ、育成を進める中で470kgもある黒鹿毛の馬体は、集団調教の中でもひときわ目立つ。この日はあいにくの曇天だったが、日差しを受けなくても、薄い皮膚を覆う被毛が美しく輝いている。名馬だけが持つ独特のオーラを放っていると感じたのは、ひいき目ではないはずだ。

そんな本馬は、小気味よい先行力を武器に札幌記念など重賞3勝を挙げたノースブリッジの妹にして、期待の大きなコントレイル産駒。煌びやかな配合にしっかりと根拠を持たせているあたりが村田牧場らしい。「ディープボンドやダンケシェーン、ドンアミティエなど、モガミヒメのファミリーはストームキャットの血と相性が良いと思っています。重賞勝ち馬を送っている繁殖牝馬の魅力をより高めようと選んだのが三冠馬。その競走成績と血統背景に魅力を感じたからですが、ストームキャットの血を持っていることも決め手になりました」と村田牧場専務が語る。「姉ルヴニールの時もそういった理由からキズナを配合したのですが、残念ながら馬格に恵まれませんでした。そういう意味でコントレイルとの配合は少々冒険だったのですが、今回のアメージングムーン24は僕らの期待に応えてくれた。この馬は1歳秋で500kg近くありましたから」と、本馬が描く順調な成長曲線に目を細めている。
当歳の頃は、もっとコロンとしていたようなイメージがあったが、負荷をかけられながらアンダーラインにゆったりとした力強さが加わって迫力が増し、いわゆる、長躯短背を具現化したような馬体を誇る。まだあどけない表情には似合わないほど、がっしりとした肩と大きな飛節が目を引き、長く深い腰はボリューム感に満ちあふれ、大きな胸が豊かな心肺機能を想起させる。歩かせると、ぐっとクビが下がり、全身にリズミカルな推進力を与えてくれる。

さて、取材当日のメニューは、屋内角馬場でウォーミングアップののち、屋内800mダートコースを2周半。そして、全長800mの屋根付きダート坂路を1本というもの。ハロン17秒程度を目安にしているというが「馬に力が付いてくるから、今の時期はどうしても予定より速くなります。15秒を切る必要がないから17秒」という指示はベテラントレーナーである場長ならではだ。冬期間は馬場凍結のために使えないコースも多いが、後條場長はそれでも工夫しながら「毎日違うメニューを課している」という。
たとえば同じ「坂路1本」でも、単走の日もあれば併せ馬で登板する日もある。坂路を使わずにトラックコースを長時間乗り込む日もあるが、集団調教の先頭を走らせることもあれば、砂のキックバックを経験させるために馬群の中で我慢を覚えさせることもあると言う。すべては実戦にそなえるためだ。
角馬場でのウォーミングアップが終わり、屋内ダートコースへ向かう。この日は集団調教のど真ん中。騎乗者が手綱を短く持ち替え「ここまで前の馬と近づけるのか」と思わせるほどの位置で我慢を覚えさせている。1周目を走り終え、ペースを上げながら2週目へ。最も進んでいるグループとはいえ、その中でも差は出てきており、徐々に隊列が伸びる。素人目にも「もっと速く走りたい」という雰囲気を醸し出しながらも、それでも物見をすることなく集中力をキープしたまま、騎乗者の指示どおりに走る姿がとても頼もしく見えた。場長によると「去年のうちにしっかりと負荷をかけているので、馬たちには年末年始は7日間ほど休養を与えました」とのこと。そのためか、坂路へと向かうコースの中で元気をもて余し、闘争心が空回りしてバタバタと落ち着かないような馬もいるが、アメージングムーン24は〝我関せず〟とばかりにどっしりと構えている。つい先ほどまで、ぐっとハミを噛んでパワーを内に込めた馬とは思えないほどの落ち着きだ。
それが如実に表れたのは坂路調教だった。スタートと同時に併せ馬の相手が立ち上がってクルリと1回転してしまったのだが、相手が体勢を立て直して加速するまで減速して待つ余裕を見せ、騎乗者のゴーサインによって一気に突き放した。
会員の皆さんへ向けての総括をお願いすると、「ダートもダメではないと思うが、芝の1600〜2000mくらいの王道路線を歩めると思う。こういう気性なので、同世代同士、牝馬同士なら2400mでも十分にこなしてくれるでしょう」と心強い言葉をいただいた。続けて「本音を言えば、もう少しここ(ファンタストクラブ)に置いてもらいたかった」と後條場長が苦笑いするが、それもまた、本馬に対する期待の高さゆえだろう。「コントレイルの仔は去年も何頭かお預かりしましたが、おそらくは世間のイメージよりも晩成型。2歳よりも3歳、3歳よりも4歳、5歳になってさらに良くなってくるような気がしますし、2世代目産駒は初年度産駒に比べると骨格がしっかりしている印象です。この仔も、まだまだこれからの馬。手を離れるのは残念ですが、次のステップでも頑張ってほしい」とエールを送る。そんな後條場長をはじめとする関係者一同の期待に応え、華やかな活躍を見せてくれる日が待ち遠しい。

