
日高に桜前線が通過して新緑が美しくなった季節、キャラメルハウスの状況を確かめるべく、浦河町のチェスナットファーム調教センターを訪れた。BTCをフル活用し、古くはノボジャックやジャガーメイル、最近ではタガノビューティーやウィルソンテソーロなど、多くの名馬を送り出してきた名門育成場。早速、場長に本馬の手応えを聞くと、嬉しい答えが返ってきた。「春になってからの短期間で急激にトモが大きくなっていて、馬体の成長が著しいですね。正直、かなり動けると思いますよ」この日はBTC内の坂路での調教を行なうと聞き、急いでゴール地点の監視小屋へ。多くの馬が駆け上がってくる中、双眼鏡を使わずともひと目で分かる芦毛の馬体が躍動していた。その時計は騎乗者が抑えたままにもかかわらず、3ハロンが40秒9(15秒4-12秒8-12秒7)だから、贔屓目なしに優秀ではないか。「前進気勢をかなり出すので抑えて走らせていますから、かなり余裕がありますよ。以前に見られた力み過ぎる面がなくなってきたのは成長です。そのあたりを感じたからこそ、杉山(晴)調教師も早期に本州へ移動する事を決めたのでしょうね」

もちろん、入厩後にネックとなりやすいゲート練習もしっかりとこなしている。「入りから駐立、常歩とダクでの出まではきっちりやって問題がありません。気性が前向きなので、これ以上はこちらでやらないほうがいいと判断しました。ゲートが開くと同時に自らが出ていきますし、これならレースでもちゃんとゲートを出る馬になりますよ」
少し話が脱線するが、面白いのは毛色の変化と馬体の成長が完全にシンクロしている点だ。毛色は1歳時に茶色がかっていたが徐々に赤っぽくなり、今ではすっかり芦毛らしい白みが出てきた。それに伴って筋肉の鎧をまとっていく姿は、まるで変身しながら強くなっていくアニメのヒーローのようだ。ところで「抑えて走らせている」と書くと、調教が軽いと誤解されるかもしれないが、実は相当なハードメニューをこなしている。日々のルーティーンは屋外ダート1600mと屋内坂路1本を13-13だが、実際の走行距離はかなりのものだ。

牧場内の角馬場で1000mのウォーミングアップをこなし、屋外ダートへの移動中に芝を500m。そしてダート1600mを走った後、坂路への移動で再び芝を500m。さらに屋内坂路1000mを終えた後、クールダウンでさらに500m走っているのだ。合計すると1日5km。これだけの運動量を涼しい顔でこなしているのだから体力は底知れない。付け加えると身体だけではなく、心も鍛えている。チェスナットファームの育成方針として、近年は併せ馬や隊列を組んだ調教で、意識的に馬同士を接触させたり、キックバックを当てたりするようにしている。これは競馬で馬群に入った時に怯んだり頭が上がったりするのを防ぐため。こうやって心技体が整うからこそ、出身馬が海外のステージでも活躍しているのだろう。
そう感心していると突然、場長が「実は…」と申し訳なさそうに口を開いた。「ここまで約半年、この馬に携わらせてもらいましたが、未だに適性がつかめないんですよ。芝でもダートでも走れそうだし、距離も極端に短くなければこなせそう。手先が軽くて、ゴリゴリのダート馬のような重苦しさはないし、完全なスピード馬でもない。乗った感触からは芝1600mかダート1800mが合いそうで、芝の1800mじゃないんだよね。なんでか?と聞かれても、感覚だから説明できないんだけどね」。その上でいたずらっぽい笑みを浮かべ、「申し訳ないけれどトレーナーに判断してもらうしかないね」そう言われて「確かに!」と思わず膝を打った。管理する杉山晴紀調教師は誰もが認めるトップトレーナーだが、ある関係者から「彼の最大の長所は、確かな適性把握とレース選択」と聞いた事がある。それは、未知の部分が多いキャラメルハウスにとって、若き名伯楽の存在が頼もしい事この上ない。

ここで父のEssential Quality(エッセンシャルクオリティ)について解説したい。近年では指折りの米国の名馬で、G1・4勝を含む10戦8勝。2歳時にブリーダーズフューチュリティ、BCジュヴェナイルと連勝し、米最優秀2歳牡馬に選ばれた。3歳となってケンタッキーダービーは3着だったが、ベルモントSは1馬身1/4差の完勝。さらに〝真夏のダービー〟の異名があるトラヴァーズSを勝ち、米最優秀3歳牡馬に選ばれた。そして名種牡馬である父Tapitの後継として、大きな期待を集めて22年にスタッドイン。初年度の種付料は破格の7万5000ドルだった。近親には史上3頭目の無敗の3冠馬となったコントレイルがいるので、日本競馬とも親和性があるはずだ。
一方の母系も負けてはいない。母のきょうだいには菊花賞と天皇賞(春)を制したワールドプレミアを筆頭に、ヴェルト一方の母系も負けてはいない。母のきょうだいには菊花賞と天皇賞(春)を制したワールドプレミアを筆頭に、ヴェルトライゼンデやワールドエースなどの大物がズラリ。さらに近親には昨年のジャパンダートクラシック覇者であるナルカミの名前もある。まさに近年の日本競馬をリードしてきた名牝系といえるだろう。
ここまでポジティブな話ばかりを連ねてきたが、もちろん課題もある。それは気性面。場長は「特に坂路で時計を出した後、顕著に気が入ります。調教で上がったテンションがなかなか下がらないんですよね。走っている時はちょうどいい気合なんですが…。うちに来たばかりの頃は結構ポワンとした性格でしたが、BTCのコースに入ってからは急にスイッチが入ったように活発になりました」とはいえ、これぐらいはこの時期の2歳なら当たり前。時が経てば解決されるに違いない。

最後にちょっとした裏話を紹介したい。これまで多くの会員さんが見学に訪れているが、おかげで展示に慣れ過ぎてしまったとか。「〝またか…〟みたいな雰囲気を出して、数分もしないうちに前掻きを始めて〝まるで見世物じゃない!〟とでも言いたげな態度をとるのです。そこは〝あなたのお仕事だから〟と我慢してもらっているんですけどね」と場長。なるほど、確かに気難しい面があるのかもしれないが、それは肝が据わった大物と捉えておきたい。
場長は最後まで愛情たっぷりに、そして自信に満ちた表情で語ってくれた。のんびり屋さんだった女の子が、しっかりと競走馬のスイッチをONにして、いざ本州へ。会員さんに不敵な態度を見せるほどのスター性を、競馬場のウイナーズサークルで見せてくれる日を心待ちにしている。


