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イノリ(メイユーブルーム23)スペシャルレポート

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5月中旬、新冠町の日高軽種馬共同育成公社の屋外ダート坂路。そろそろ夏競馬の番組が気になるこの日、パッショーネの西野代表がキセキ産駒のイノリに課したのはタイムではなく「自主性」だった。「今日がスピード調教ということを馬に理解させるために、スタートである程度の気合いは入れますが、そのあとは馬の自主性に任せようと思います。走りのリズムや走行フォームに重点を置きながら、息遣いを乱さず無理させることなく、どれくらい走れるものか。自分たちも楽しみです。だから、楽しみにしてください」という言葉から、手塩にかけてきた結果への自信をにじませた。

ウォーキングマシンでの入念な準備運動を終えたイノリにハミをつけて、鞍を置く。表情にはまだ幼さを残しながらも、大きく澄んだ聡明な瞳は、どこか自信ありげで、着実な大人への成長を感じさせる。

坂路調教1本目。ぴったりと前に馬を置き、前の馬が刻むペースに合わせながら、キックバックにより顔に当たる砂を我慢させる。今年の屋外坂路コースは、大量に砂を入れて砂厚が15cmほどにもなっているというから、蹴り上げる砂もまた大量だ。しっかり我慢ができた1本目に続いて2本目をスタート。「だいたいハロン14秒程度で入るつもりでした」という最初の1ハロンが13秒3、そして、その深い砂をものともせずにさらにスピードを上げて12秒台へと突入した。

「イノリは、いつも相手に合わせた走りをする馬。併せた相手がハミを噛んでしまったので、このままでは併せた相手がオーバーペースになると判断して早めにギアチェンジを促しました」と頭をかいたが「ペースを上げた時の加速がすごかった。あっさり突き放してしまったので、最後は少しふわっと気を抜いて、余力残しになっちゃいました」と反省しきり。しかし、詳しくは後述するが、その独特な走行フォームから生み出される加速力は、動画撮影のため併走する車の運転手を慌てさせるほどのものだった。さらに「バテるどころか、坂を上り切ったあとのフラットコースでもう1回行く気になった」と、その体力と気力は鞍上を驚かせた。「スピードとパワーを高いレベルで兼ね備えている馬で、武器はセンスと総合力。こうした現状の仕上がり具合と、プラスビタール・スピード遺伝子検査の結果がCT(中距離型)だったことを踏まえて、ある程度の距離があったほうが良いのでは」と思案し、「札幌開催の新馬戦は芝1500m以上がほとんど(*2025年札幌競馬場芝コースの新馬戦は11レース中、10レースが芝1500m以上)なので、そのどこかが目標になります」という結論に至ったそうだ。

本馬の父はキセキ、母はダンスインザダーク産駒のメイユーブルーム。祖母フローラルグリーンの兄は1999年の菊花賞馬ナリタトップロードだ。ステイヤー色の濃い血統表を体現したような無駄肉のないシャープな馬体は、オリンピック代表のマラソン選手を彷彿させる。手脚が長い分、より背中は短く見えるものの、しっかりした腹袋が優れた健康状態を物語る。さらに、前後のバランスが秀逸だ。ほど良い傾斜を持つやや長めの肩甲骨と、それに呼応するような大腿骨の可動域が広く、歩かせると低い位置にあるやや長めの首がリズミカルに連動し、どこか優雅さを感じさせる大きな動きを見せてくれる。

常歩の美しさは、この馬のセールスポイントのひとつだろう。常歩からキャンター、ギャロップへの移行が実にスムーズなのだが、その最大の特徴は〝回転の早いストライド走法〟とも言うべき、長い手足を上手に使ったダイナミックな走りだ。完歩は大きいのだが前・後肢の収縮力が優れているので、ギャロップにいくと騎乗者はピッチ走法のような反動を感じるという。西野代表は「騎乗者の立場で言えば、スピード感覚がつかみにくい馬。たぶん、これくらいのペースだろうと思う以上の時計が出ている。一言で表せば、芯のある走りをする馬」だという。

さらに、「特別な雰囲気を持っている、不思議な馬です。生産した武田牧場さんは〝気になる馬〟と表現していたのですが、とにかく不思議」と続ける。それは決して悪い意味ではなく、パワフルという表現からは対極にあるような馬体であるにもかかわらず、砂厚15cmというダート坂路を勢いよく駆け上がる。15cmと聞いてもピンとこないかもしれないが、JRA競馬場のダートコースはおおむね9cmに均されているので、その1.5倍以上の坂路を平然と駆け上がる本馬は、見た目からは想像できないパワーを秘めているといえよう。

キックバックへの反応も不思議ポイントのひとつだ。「前の馬が蹴り上げる砂や芝を好む馬はいません。この馬も嫌だとは思うのですが、嫌だというアクションを起こしません」と西野代表が話す。

さらに、調教を終えたあとの洗い場でも、顔に水をかけられようとも、お腹の下を触られようとも、脚を上げられても、じっと身を委ねている。そして何よりもスタッフ全員が首をかしげるのは、調教を休むと体重が減ってしまうこと。「運動しない日は飼葉を食べないのです。逆に運動した日は勢いよく食べる。不思議な馬です」と口を揃える。

この不思議なほどの我慢強さや従順さは、「たぶん、人間がやろうとしていること、自分が求められていることを理解しているからだと思います」と西野代表が分析する。本当のところは馬に聞いてみないと分からないが、そう考えれば合点がいく。だから、ゲートの中では微動だにせず、前が開くと同時に勢いよく飛び出す。それは天から与えられた才能以外の何物でもない。

「メイユーブルームの仔は、姉モズハチキンや兄イスラソリタリアなど、何頭も市場コンサイナーとして預からせていただいた経験があるご縁で、この馬も生まれてすぐに見させてもらいました。当時、生産した武田牧場さんがおっしゃっていた〝気になる馬〟という表現の真意は、そういう賢さのことだったのかもしれません。そして、今強く感じるのは〝予想以上のギアがある〟ということです。おそらくトップギアまで、まだ隠し持っているギアがいくつかあると思います」と教えてくれた。静かにかみしめるようなその言葉から、西野代表がイノリに感じている手ごたえが如実に伝わってきた。

「生産者の方からは、この馬を『幸せにしてやってくれ』という言葉をお預かりしています」という。何やら哲学的な表現だが「言い換えれば、『競走馬として生まれたからには、たくさんの方々の記憶に残るよう、そして長く血統表の中で生き続けられるようにしてあげてくれ』ということでしょう」と西野代表が結んでくれた。

この大きな目標を心に秘め、残り少なくなった育成の日々も入念な調教に心を砕いている。イノリは「幸せな馬」になってほしいという「祈り」に応え、生産、育成、そしてデビュー後の管理に携わる関係者はもちろん、出資会員の皆さんも「幸せ」にしてくれるはずだ。

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